健康つれづれ草 其ノ壱 パンデミック今昔 ―
新型コロナウイルスとスペイン風邪

らら・カフェ 2021春号(第54号)/ 2021年3月

未来に向かって、夢をはぐくむ

▲100年前、スペイン風邪予防のため、数種類のポスターを考案、印刷、各地に配布して、感染拡大防止、注意喚起を促した。(本記事中の同掲載図版は、国立保健医療科学院図書館所蔵 内務省衛生局著『流行性感冒』1922・3)

医学界の第一線で、長年ご活躍の岡﨑勲先生。今年度、いわき市の東日本国際大学客員教授にご就任、明日に向けての福島の医療保健に取り組まれることに。
本誌では岡﨑先生に医療や健康をテーマにご健筆をふるっていただきます。今回は、人類を脅かしている「新型コロナウイルス」です。


まだ記憶に残る?SARSのこと

 今から二昔近く遡ることになりますが… 2002年11月、中国広東省で原因不明の異型肺炎患者の報告があったのを発端に、翌年2月には香港、ベトナム、シンガポール、台湾、カナダなどに拡大、3月にWHO(世界保健機関)は「重症急性呼吸器症候群 」(SARS)と命名、1945年の設立後初めて「旅行自粛勧告」を世界に向けて発し、世界の航空会社は空前の不況に。患者発生は中国を中心に32の地域・国で8096人に達し、うち774人が死亡しました。
 この時、WHO西太平洋事務局長としてSARS対策を陣頭指揮したのが尾身茂先生で、私もたびたび公務で事務局のあるマニラで先生にお会いしました。
 このSARSウイルスと、今、猛威をふるっている新型コロナウイルスとがよく比較されますが、両者の違いはまず感染力。新型の方が強力です。「サイトカインストーム」と言って、新型コロナウイルスを異物と認識しての免疫反応が過剰に起きて重症化すると、死に至ることがあるのです。
 SARSウイルスの増殖は、気道の下部でおこり、さまざまな症状を呈しますが、新型コロナウイルスは上部で増殖するので無症状に関係しているようです。

スペイン風邪、福島でのパンデミックは?

 世界中を巻き込んでのパンデミックは100年前にも起こりました。H1N1亜型インフルエンザ、通称「スペイン風邪」と呼ばれています。スペイン風邪は第一次世界大戦中、中立国だったスペインからその情報が発せられたことからそう呼ばれるようになりました。欧州から北米、アジア、アフリカ、豪州、南米と全世界に広がり、3年間猛威を経て終息。世界大戦はこれにより終結を早める要因ともなりました。
 昨年11月11日の「日本経済新聞」の文化欄に、『スペイン風邪をひいた自画像』という絵画が掲載されていました。作者は『叫び』で有名なノルウェー出身のエドヴァルド・ムンク(1863~1944)、1919年の作品です。そのころ大流行していたスペイン風邪にかかったムンクが、「自分は生きるのだ、という"心の叫び"を、まるで開けた口から吐き出すかのように描いている」と、筆者のアート・エデュケーター宮本由紀さんは述べています。

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